少し(?)前ですが、ペンギン・ハイウェイを劇場で観て参りました。
久しぶりにこんな映画が見たかった!と思える作品だったので、頑張ってレビュー&考察。
事前に小説も読んでいたので、その辺りも含めてレビュー&考察。
丸出しネタバレーションなので、ご承知起きのほどを。
目次
- あらすじ
- レビューざっくり
- 登場人物雑感
- 考察
- Good Night
あらすじ
アオヤマくん最高にクールな小学4年生の男の子。おっぱいが大好きです。
一日30分はおっぱいのことを考えているそうです。
アオヤマくんは、常に持ち歩いている手帳に毎日その日に学んだことをメモして、
世界の仕組みや有様を理解し研究し、好奇心を原動力にメキメキ知識を身につけている、そんじょそこらの小学4年生とは一線を画す少年です。
そんなアオヤマ少年が住む町に、ある日突然、生きているペンギンが出現します。
なんの前触れもなく現れた野生のペンギンに興味津々のアオヤマくん。
早速ペンギンが町に現れた原因を突き止めるため、プロジェクト「ペンギン・ハイウェイ」を立ち上げます。
ペンギンの出現も気になりますが、それ以上にアオヤマくんが気になっているのは、彼の通っている歯科医院で働くのお姉さんこと。
アオヤマくんとお姉さんは仲良しで「海辺のカフェ」でチェスをしたり、アオヤマくんが日々研究していることを話し合ったり、
アオヤマくんはどうやらお姉さんに一方的に将来を誓っている様子。
そんなお姉さんとペンギンには別なつながりがあるとを知ることになったアオヤマくん。
それと同時に、お姉さんの謎も知ることになります。
町に起きている不思議な出来事と、ペンギンと、お姉さんの謎とが少しずつ、
しなやかに繋がっていき、やがて少年に、一生かけても忘れられない答えをもたらします。
甘酸っぱいボーイのアオヤマくんが、ミステリアスなおねえさんと過ごす、一夏の謎解き物語。
…というのが大筋のあらすじです。
(他にもクラスメイトのウチダくんとかハマモトさんとか色々魅力的な登場人物や出来事が出てきます。)
作品レビューざっくり
事前に小説を読んでからの映画でした。
ストーリーはところどころ切り詰めつつ、全体としてはまとまっていたかとは思いますが、
お話に深みを持たせるエピソード、具体的にはウチダくんの死生観に関する話が、時間の関係からか丸っと無くなっているところが口惜しいと思いました(アニメでどんな表現になるのか観たかった!的な前向きな意味で)。小説読んでから挑むとなお良い。くらいですので、映画単体でも十分面白いです。
クライマックスの流れは夏アニメ!ジュブナイル!!ですね。
大人のとき観ても心に残る描写になりましたが、子どもの時分に観ることになっていたら、きっと人格形成に影響出るくらい良い映像です。
作画は、絵柄がポップでカラフルなところが映像全体の雰囲気を浮き立たせているので、人によっては目で観る軽さと話の内容の一致を付け辛くなるのかなぁと思いました。特に、静かなシーンの部分は顕著にそう見えてしまうのかも。陰影が弱まる感じ。
世界観への丁寧な解釈と小気味の良いアレンジは観ていて楽しいです。導入部分から画面の隅々まで見たい!と思えるのは久しぶりでした。キャラクターの動きもアニメーションが持つ良さを発揮できています。動きのあるシーンは線と塗りの関係性が映えますね。大画面だと尚更。(この辺りはスタジオコロリドさん流石です。今までもすごかったですし、今後の作品も楽しみでうす。)
何回か劇場で観たくなります。もう10月になるのにまだ観に行けていないから行きたい…。
登場人物雑感
アオヤマくん
将来立派な大人になれること確信していてやまない、21世紀を生きるに相応しいボーイ。
彼にとって、知覚可能な世界の全ては彼の好奇心と向上心を刺激するおもちゃ箱みたいなものなのかも知れませんね。
純粋な知的好奇心とはどんなものかを体現しつつ、
小学4年生にしては人並外れた画力とか洞察力とか思考プロセスを持っているのはご愛嬌というか、
アオヤマくんのような子が小学生の時にクラスにいてくれたらなんて面白そうなんだろう、とむしろ思いました。
自身の感情よりも理性と好奇心故か、理屈然としているところが前面に出ていますが、
知識や理性じゃないところを蔑ろにしているわけではないので(鈍いは鈍い)、
実は心の成長部分の変化が何となく物語の始めと終わりで感じることができるところとか、魅力的なキャラクターです。
お姉さん
今作最大の魅力を持つ方。アニメでも小説でも魅力的。多分原作者の森見さんの女性像が全般的にそうなのかも。
他の作品を読んだこと見たことそんなに多くありませんが、基本的にミステリアスな女性=魅力満載。の図式が多い印象。
蒼井優さんの声が最初はトレーラー見たときに正直びっくりしたんですが、すごい、ジワジワ、
本当にジワジワ、お姉さんの声は蒼井優さんしかいないと思えるようになってきます。
普段ミスマッチングな声のキャラクターは最後まで違和感しか感じないのに、新しい体験ですた。
明朗快活、映画ではさらにそれがしっかりと描写されています。
結局のところお姉さんの正体は一体何か、と言う謎の答えは、
作中ではしっかりと明かされていないのですが(なんとなくぼんやり人じゃない、くらいは分かる)、
きっとそれはアオヤマくんとまた会えたときのお楽しみですね。
ハマモトさん
アオヤマくんの研究仲間兼恋敵(お姉さんにとっての)。アオヤマくんとは違う分野で頭の良さが光る子。
チェスが大得意で勝気な性格、ちょっと大人びていますが、物語の後半でスズキくんに怒りを爆発させるシーンや、
お姉さんに向ける嫉妬みたいな気持ちなどなど、感情表現の豊かさは作品内で一番ですね。
ハマモトさんが物語に参加してくるあたりから、お話の流れも変化してくるそんなキーパーソンでもあります。
よく考えたらあの海を一人で見つけて観察していた辺りアオヤマくんに負けず劣らず好奇心旺盛な子なんだと思います。
ウチダくん
アオヤマくんの研究仲間兼友達のウチダくん。
ちょっと鈍くて引っ込み思案だけど芯の強い子です。
小説だと独特の死生観について語っているのですが、実はその辺りのお話がこの物語全体の根幹について語っているような気もします。
ので、その部分をまるっと映画でやらなかったため、ウチダくんは映画だとちょっと影の薄いキャラになったかなぁと。
スズキくん
物語の中で成長した子の一人。
きっと君の未来は明るい!はず。
お父さん
博識聡明な物腰で、アオヤマくんが謎解きに詰まったときにとても良い塩梅でアドバイスをぶっこんでくれる人。
お姉さんの正体になんとなく気付いてらっしゃんたんでしょうかね。
考察
海について
まずは海についてです。
今回の物語の様々な出来事の原因となっている謎の現象。
具体的には、お姉さんの登場、ペンギンの登場、ジャバウォックの登場、などの原因となっている存在。
一体海とは何か。
これはおそらくは、宇宙のどこかに存在している(た)、特異点がむき出しになったものか、あるいはその特異点直通のワームホールかと考えられます。
(アオヤマくんたちが内部に入り込むことができたのでワームホールの方が有力かも)
ここで言う特異点とは、宇宙物理学で言及されているもので、
ブラックホール内に包含されていると考えられています。(そもそもその存在も理論的には、ある、とされているものです。)
一般相対性理論が破綻するとされる、その質量は無限大とも言われています。
通常は事象の地平線の内側に存在しているので、僕たちが暮らす空間の物理法則に影響することはありません。
この特異点が、もし、通常空間(僕たちが暮らす宇宙空間)に登場したら(裸の特異点)、と言うのが、
この物語で言うところの海という現象なのだと考えられます。
ワームホール経由ということ全部丸出しではないので、半裸の特異点というところでしょうか。
物理法則に直接関与し、通常認識され得る法則を全く書き換えてしまう。
お姉さんや、コーラから生まれるペンギンなどは、この特異点が物理法則に影響したことに起因していると考えられ得ます。
質量が無限大に近い状態のものが通常空間に出現したら一瞬で銀河(宇宙?)全体が消滅するのでは?とか、
そういったことも考えられますが、あの世界ではバッチリ空間を破壊することなく存在することが出ているあたり、
無限大=0の式が成り立ったのかも知れないですね。むしろ成り立ってるから海ができたと信じたい。
ところで海の中(外?)の世界は一体なんだろう、とい疑問も生じますが、
あれは別の宇宙空間における、あの町の一帯(あるいは地球)のエントロピーが均一になった状態なんじゃないかと。
実際の海とか電柱とかイオンとかアオヤマくんが暮らす町が溶け合っている状態。所変われば、なんとやらですね。
お姉さんの記憶の大部分はあの世界に密接に関わっているはずです。
ペンギンについて
特異点を語るとき、宇宙検閲官仮説という仮説が出てきます。
平たく説明すると「裸の特異点が発生することは通常あり得ず、それは、検閲官らしき存在によって禁じているからだろう」とい仮説なのですが、ペンギンはまさしくその検閲官の役割を担っています。
通常空間に出現する前に検閲される特異点が、この物語では出現した後に検閲されている、という違いはありますが、
海とペンギンの関係性は、裸の特異点と検閲官の関係性に類似しています。
検閲官が、認識可能な実体として通常空間に具現化した状態というのが、このペンギン姿なのかなと考えられます。
なぜその姿がペンギンだったのか、それはお姉さんについての項で言及します。
ジャバウォックについて
検閲官に対してそれを防御する役割、というのがこのジャバウォックと考えられます。
(海を生き物としたら、免疫機能に相当する役割ですね。)
元々の名前の由来はルイス・キャロル原作、児童小説「鏡の国のアリス」(不思議の国のアリスではない)に登場する詩の中でのみ語られるクリーチャーですね。
実際の姿がどんなものなのかは、押し絵によって異なるのですが、
基本的には色んな生き物を混ぜこぜにして誇張した、コミカルなような禍々しいようなそんな見た目で描かれることが多いです。
名前の意味が「議論の賜物」とか、ジャバウォックに関することを論ずるのは到底無意味なこととか、
そんな風な意味を持つ名前と言うところも、この存在に味わいをもたらしてくれます。
映画ではそんなに描写がはっきりと描かれている訳ではないですが、お話のスパイスにはとても不可欠な存在。
どうしてこのジャバウォックもこんな姿なのか、それももちろん、お姉さんについての項で言及します。
お姉さんについて
裸の特異点と宇宙検閲官仮説に辺りをつけて、考察をしていますが、
最大の謎はやはりお姉さん。謎です。全て謎です。
まず、お姉さんの正体です。
お姉さんの正体は海と同じ特異点ないし、それに類する存在です。(海から発生したのかも)
人間の形を取り、振る舞いも人間そのものですが、食事を取らなくても生きていける、名前がないなどは人間ではないことを示唆しています。
また、ペンギンやジャバウォックを生み出せるなどは、海と近い能力を持っている=海に近い存在の裏付けになります。
ただ、お姉さん自体はそういった存在ではあるものの、認知上の存在は人間という枠組みの中にいます。
本人さえも自覚がなかったように、人らしく存在している、それがお姉さんです。
では、一体いつからお姉さんはあの世界の宇宙に存在していたのか。
結構身も蓋もない仮説なのですが、物語の中にお姉さんが登場した瞬間に、あの世界の宇宙に実体化したんじゃないかと。
正確には冒頭でアオヤマくんが僕にはもう結婚する相手が決まっているとモノローグをしているくらいからか、その日から。
あらゆる記憶、お姉さんに関わるもの全ては、実は作り物で、
お姉さんも含め、それらお姉さんにまつわるものが創造されたのは、海がこの世界に現れた(物語が始まった)瞬間からではないかと。
裸の特異点は、不思議な出来事を引き起こすだけに留まらず、お姉さんの存在の創造どころか、これまでの日常にお姉さんが当たり前に暮らしていたと、登場人物の記憶を作り変えることや、空間の因果関係にも干渉して、お姉さんがあの町に生活しているという事実すらも生み出してしまったと考えられます。
お姉さんはあの町(宇宙)に生まれた瞬間から、自分の存在にどこか違和感を持ちつつ、自分が一体何者なのか、その謎を自分を好いて止まないアオヤマくんに投げかけます。お姉さん自身、自分の得体の知れない謎に戸惑いながらも、アオヤマくんとの交流という今ある事実に安心していたのでしょう。
何故お姉さんがペンギンを生み出すのかですが、これは、お姉さんがたまたまペンギンを好きだったからです。
猫ちゃんが好きなら猫を生み出せるようになります。像が好きだったら像を生み出せるようになります。
これは、お姉さんという存在が意志めいたものによって生み出されたのではなく、あくまで発生の違いはあれど自然的に生まれた存在あることに由来するものであり、そこに深い意味はないんだと考えられます。お姉さんがペンギンを好きだということが、重要なんですね。
ジャバウォックについては、そういったお姉さんが生き物(主にペンギン)を生み出す能力をうまくコントロールできない結果からで、
誕生した生き物は、生き物として未分化な状態で出現してしまうため、色々な種類が混ぜこぜになった姿として誕生してしまい、それがジャバウォックと呼ばれる、と考えられます。
お姉さんが能力をうまくコントロールできないときとは、海の影響が弱まったとき、つまりお姉さんが実体を持った存在としてあの宇宙に留まれないとき、と考えられます。
海の影響が弱まったとき、と言及していますが、実際に海とお姉さんの力関係はどちらが強いということはないのかも知れません。
映画では海が消すことでお姉さんも消えてしまいましたが、お姉さんをなんらかの方法で消滅させても海は消えたのかも。
(海が消えた後もお姉さんやペンギンはしばらくそこにいたので、むしろお姉さんの方が力関係は強い?)
そして最後に、なぜお姉さんはお姉さんなのか。
この謎について僕は、偶然仮説とロマン仮説を考えています。
偶然仮説はたまたま、条件として完全にランダムな形でお姉さんが誕生したのではないかと、言う仮説です。
歯科医院で働いているのも、アオヤマくんが目を見張るおっぱいに黒いロングヘアーの容姿も、アオヤマくんたちと知り合いなのも、全て偶然。たまたまそうなっただけ。
もう一つのロマン仮説は、アオヤマくんが持つアニマ(男性の無意識の中に存在する女性像、女性)が海の干渉を受けて具現がしたのがお姉さん。と言う、ちょっと御都合主義っぽい仮説です。
どちらの仮説にするかで、お姉さんとアオヤマくんの関係性はちょっぴり変わってくるなぁと思いますが、絶賛支持したいのは偶然仮説です。絶賛支持します。
あの町で起きたことも、お姉さんが出現したことも、ペンギンも、全てが偶然で、
複雑に絡み合ったドミノ倒しが突然始まるかのような因果関係でしかなくて、
お姉さんとアオヤマくんは、そんな理由も意味もない現象のおかげで、出会うことができたんじゃないかと思います。
ホントは全ての物事って突き詰めるとそうなのかも知れませんが、それに人が意味をどう見出だすかが、
いついかなるときも大事なのではないかと。と、アオヤマくんがお姉さんのことを好きだった、と宣ったシーンを見て思いました。
Good Night
宇多田ヒカルさんの歌う主題歌でございます。音がね、歌詞がね、この映画の世界観にピッタリでございます。ありがとうございます。
エンドロールで流れた時の謎解きは終わらない感が絶妙に表現されていますね。
寝る前の言葉ですね。小説ではアオヤマくんが「ぐんない」という言葉でお姉さんに伝えています。
Good Bye(グッバイ)でもGood Morning(グッドモーニング)でもなくてGood Night。
お姉さんはどんな夢を見ているのか。次に二人が再会するときに、その謎は解けるのかも知れませんね。